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世界最大のジャズ・イベント、モントルー・ジャズ・フェスティバルの完全ガイド・サイトです。

モントルー・ノートHEADLINE

私のお薦めモントルー盤
~日本のミュージシャン篇~

さて、ここでは私のオススメするモントルー・ジャズ・フェスティバルのライブ盤を紹介しましょう。
フュージョン盤は「サイバー・フュージョン」の橋雅人さんが紹介されているので、私は日本人ミュージシャンのアルバムを挙げます。

ここに書かれたアルバムはほとんど廃盤になっているものが多いのですが、中古屋さんをこまめに探せば見つかると思います。(しかもかなり安価なプライスが付いてるはず?)

ともあれモントルー・ジャズ・フェスティバルという大舞台での日本人ミュージシャン達の熱演の数々、ぜひ一人でも多くの人に聴いてほしいものです。

モントルー・ジャズ・フェスティバルの渡辺貞夫/渡辺貞夫(70年)
とにかくアドレナリン全開、興奮必至というそれはそれは大変なアルバムです。

まずは司会者(おそらくプロデューサーのクロード・ノブス?)によるミュージシャン紹介のMC。「日本のサクソニスト、サデオ ワナタベ!」というフレンチ・イングリッシュに会場は大爆笑。「ワナタベだア!」とゲラゲラ大笑いしているのは角田ヒロ。
何ともユーモラスな出だしなのですが、それをかき消すようにいきなりチンさんのベースがブンブン、渡辺貞夫の鋭いソプラニーソが炸裂、以下メンバー全員による蛇口全開の演奏が始まります。
この激しい落差、そしてこの展開、く~、何度聴いてもたまりません。

今回これを書くために改めてこのアルバムを聴き返したのですが、ちょっとビックリしたことがあります。
それは33年前の音源にもかかわらず、まったく古さを感じさせないという事です。
角田ヒロのエネルギッシュなドラム、増尾好秋のフレッシュなセンスにあふれたギター、鈴木良雄のツボを心得たベース......とみんなまだ若いのに素晴らしい仕事ぶりです。
そして何と言っても御大・渡辺貞夫のサックス、フルートの切れの鋭さ.....もう言うことありません。

さっき「古さを感じさせない」と書きましたが、その理由は角田ヒロのドラムのせいかも知れませんね。
彼の叩き出すリズムはジャズとかロックとかフュージョンとかのそれではなく、限りなくファンクに近いもの。(特に一曲目の「ラウンド・トリップ」はそう) 
彼のこうしたジャズのフィールドにとらわれない自由闊達なドラミングによって、他のメンバーが大いに鼓舞されたのは間違いありません。
角田ヒロはモントルー・ジャズ・フェスティバルの一週間前に、急遽渡辺貞夫バンドに参加したそうですが、渡辺貞夫も角田ヒロのプレイが大変気に入ったようで、後年彼に捧げた「ヒロ」という曲を書いています。(『渡辺貞夫リサイタル』に収録)

音楽的には荒削りな部分も散見されますが、それをカヴァーしてなお余りある、ワイルドこの上なき当時の渡辺貞夫バンドの演奏が楽しめる傑作アルバムです。私は大好き!
スイス・エア/渡辺貞夫(75年)
このタイトル、そしてこのジャケット、ほとんど航空会社の宣伝アルバムのようです。
しかし内容はといえば、渡辺貞夫の全アルバムのみならず、全ての日本のジャズ・アルバムの中でも上位にランクされる名作である!と断言します。

いや、このアルバム何回聴いたでしょう。
1枚目のレコードは完全に聴きつぶし、2枚目のレコードもオシャカ寸前、CDになってなんとか今は持ちこたえているという状態で、もうフレーズの隅々まで頭の中に入ってしまいました。頭の中にCDが一枚インプットされているようなものです。

御大・渡辺貞夫が素晴らしいのは言うまでもありませんが、特筆すべきは本田竹広(当時は本田 竹曠)のピアノです。
モントルーという所はビル・エバンスしかり、レイ・ブライアントしかり、モンティ・アレキサンダーしかりと、ピアニストの名演が生まれる場所でして、「ひょっとすると”ジャズ・ピアノの女神”が住んでいるのでは?」とさえ思います。
そしてこの日この時、モントルーのジャズ・ピアノの女神は本田 竹広の肩にすっと手を下ろしたのでした。

圧巻はレコードでいえばB面を占める「ウエイ」「スエイ」の2曲。そしてこの2曲をブリッジする形で演奏されるピアノ・ソロです。
とにかく異常な程の集中力、構成力でいつものアドリブ一発の本田さんのソロとは趣が違います。
いかに「凄いか」ということは私の貧弱な語彙ではとても伝えられそうにないので、ぜひ買って聴いて下さいというしかありません。
そう、このアルバム、本田 竹広畢生の名演を記録したものとして、私にとって忘れられないレコードなのです。

河上修(b)、守新治(ds)のよくバネの効いたリズム隊も、このバンドにマッチしています。ライナー・ノーツでは「この2人のリズムは走り過ぎ」なんて書いてありますが、こういう評論は一切無視してよろしい。やはりジャズはリズム隊が”ちょっと走り過ぎ気味”の方が良いのです。御大も気持ち良さそうにサックスを吹いているではないですか。

それからこのアルバム、レコードでは最後の曲「パガモヨ」が途中でフェイド・アウトされていて、これが長い間私にとって痛恨事でした。(ラジオ番組「マイ・ディア・ライフ」では完全版がオンエアされたそうですが)
「CD化の際には完全収録されるかも?!」と期待したのですが、やはりCBSソニー、甘い会社ではありませんでした。(笑)

このアルバムに収録されている音楽は、当時の渡辺貞夫がアフリカン・サウンドに傾注していた時代のものなので、現在のコンテンポラリーなフュージョンをメインに演奏している渡辺貞夫の音楽に親しんでいるファンが、いきなりこの『スイス・エア』を聴けば面食らうかも知れません。
しかし渡辺貞夫というミュージシャンの魅力の核心は、間違いなくこのアルバムに詰め込まれています。

おっと、このアルバムについて書くと限りがなくなってくるので、この辺で。

▲現在のメイン会場のストラビンスキー・ホール(左)と、かつてのメイン会場だったカジノ(右)
右)
モントルー・サイクロン/三木敏悟&インナー・ギャラクシー・オーケストラ(79年)
三木敏悟って知っていますか? 彼が率いていたインナー・ギャラクシー・オーケストラのアルバムの数々は、当時大変話題になったものです。(三木がアレンジを担当した中本マリの『アフロディーテの祈り』も良いアルバムだったナア) 

 このアルバムはそのインナー・ギャラクシー・オーケストラが世界の檜舞台であるモントルー・ジャズ・フェスティバルに出演した際に録音されたもの。三木敏悟も意欲満々で乗り込んだようで、このフェステバルのために「モントルー・サイクロン」という組曲まで書いています。
ボブ・ブルックマイヤー、ジョン・ファディス、ジョー・ペック、リチャード・デイヴィスもゲストで参加、色を添えています。

しかしこのアルバムで本当に凄いのが、メイン・ソリストである松本英彦(ts、f)です。
インナー・ギャラクシー・オーケストラのメンバーとして、この『モントルー・サイクロン』にも参加している菊地康正(ts)から、昔こんなエピソードを聞いたことがあります。
「このモントルーの時は本番前にリハをやったんだけど、その時の松本英彦のテナー・ソロには、本当に鳥肌が立ったね。リハで全力を出し切っちゃったのか、本番ではやや落ちるけど。(笑) でもオレは、この人は本当に天才だとつくづく思ったよ」......
ともあれこのアルバム、松本英彦のプレイだけでも必聴に値するアルバムです。

このインナー・ギャラクシー・オーケストラはこの後、数作を残して解散。三木敏悟も現在はミュージカルの音楽をやっていると風の噂で聞きました。こういったオーケストラの企画もの、現在の日本のジャズ界では予算の問題からか、ミュージシャン・プロデューサーもほとんど誰も手を出さなくなりましたが、こういったゴージャスな作品、もう出ないだろうナア....とも思います。
アット・モントルー・ジャズ・フェスティバル/松岡直也&ウイッシングライブ(80年)
日本人がラテン・ミュージックを演奏する、というだけでもヨーロッパの人達にはかなりのインパクトがあったのではないでしょうか?
総勢11名、リトル・ビッグバンドといって良い編成で、松岡直也がモントルーに登場です。
演奏内容は決して松岡直也のベストではないかも知れませんが、当夜の熱気が伝わってくる好盤です。
やはりオリジナル曲が魅力で、こういった大舞台でもマイ・ペースを崩さない御大のピアノはさすが。
こちらはトウーツ・シールマンスとモンゴ・サンタマリアがゲストです。

ライナーを読むと、この頃(20年前)はいかにモントルーが日本から遠い国だったか分かります。
スイス航空で成田から香港まで5時間、香港からカラチまで8時間、カラチからチューリッヒまで数時間のフライト、さらにチューリッヒからジュネーヴまで一時間のフライト......。
書いているこちらまで「ご苦労様でした」と言いたくなる飛行時間です。
いやはや、大変だったでしょうなあ.......。
カーニバル~ライブ・アット・モントルー/ネイティブ・サン(83年)

80年前後、絶大な人気を誇っていた和製フュージョン・バンド、ネイティブ・サンのモントルー・ライブ盤。
演奏内容はといいますと、スタジオ録音盤と違ってかなりラフな感じです。
と言いますか、本田さんにしても峰厚介さんにしても「モントルーだろうがジロキチ(ネイティブ・サン誕生の地ともいえる高円寺のライブハウス)だろうが、俺達はどこでもマイ・ペースさ」っていう人達ばかりなので、大舞台という特別な気負いもなく、いつも通りの「そのまんま」の演奏になっています。

峰厚介の書いたファイト一発の「ゴー・フォー・イット」、本田竹広の作曲センスが光るスロー・ナンバー「クール・アイズ」、ライブでの人気曲「ベイ・ストリート・トーキン」、最後はお馴染みのアンコール・ナンバー「イズント・シー・ラブリー」まで一気に聴かせます。それにしても聴衆の熱いこと。お客さんも、ほとんどライブハウスのノリです。
これに「アニマル・マーケット」や「スーパー・サファリ」が入っていたら完璧ですが、それは高望みというものかもね?
それにステージの持ち時間もないし.....。う~ん、残念!

尚、この時のライブの模様は後日、衛星放送でもオンエアされましたが、これにはグレッグ・リーの書いた「スライ・フォックス」が流れていました。
モントルー盤にはこの「スライ・フォックス」が入っていないので、両方聴くとモントルー・ジャズ・フェスティバルにおけるネイティブ・サンの勇姿、その全貌が分かるというわけです。

それにしてもこのモントルー・ライブが終わった後に本田さん・峰さんが飲んだお酒、さぞかしうまかったことでしょう。





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